ことば

あおり運転のある辞書

こんにちは、キジくんケンケンブログのキジけんです、ケンケン。

自動車運転での「あおる(煽る)」という言葉について、辞書を参照しつつ書きます。

自動車運転での「あおる(煽る)」

今でこそ、自動車運転での「あおる(煽る)」という言葉は普通に使われますが、昔は一般的には使われる言葉ではなかったと思います。

もちろん、「煽る」言葉自体は普通にありましたが、意味としては、次のような意味で使われていました。

あお・る【煽る】[他五]
①風が吹いて大きく動かす。
②おだてそそのかす。扇動せんどうする。「民衆を―」
③勢いの影響をおよぼす。「友だちの猛勉強にあおられる」

(新解国語辞典第二版(小学館。1999年1月1日))

辞書の年月日は、その版の発行年月日(年は西暦)です。複数の刷があるものも、第一刷の年月日にのっとるものとします。また、引用の際、見やすくするために改行を入れたり、漢数字を算用数字に変えたり、細かい記号や歴史的仮名遣いを省略したり、文字装飾等したりすることもあります。(以下も同じ)

上記②③の意味に似た使い方として、「あおる(煽る)」という言葉は、ほかに、「他人を刺激して、(激しい)行動に駆り立てる」(明鏡国語辞典第三版)というような意味でも使われています。

自動車運転の「あおる(煽る)」(以下、「自動車用法」とも呼びます。)は広く捉えるとこの意味に含まれるとも言えますが、一方的に恐怖や危害を与える場合もあると思います。

自動車運転での意味の「あおる(煽る)」が辞書に載っているか

以下では、「あおる(煽る)」という見出し語の語釈に、「自動車運転で」「運転中」「車のうしろ」などのように、「自動車運転」の場面で使われることが明記されているかどうかで手元の辞書13冊を分類します。

「あおる(煽る)」の語釈に自動車運転での意味を明記していない国語辞典

用例にもなし

自動車運転での「あおる」(自動車用法)が、用例も含めて存在しないのは次の辞典です。

新解国語辞典第二版(小学館。1999年1月1日)
旺文社国語辞典第十一版(旺文社。2013年10月13日)
新選国語辞典第九版ワイド版二色刷(小学館。2011年1月31日)
集英社国語辞典第3版(2012年12月19日)
現代国語例解辞典第五版(小学館。2016年11月20日)
学研現代新国語辞典改訂第六版(学研プラス。2017年12月19日)
岩波国語辞典第八版(岩波書店。2019年11月22日)
広辞苑第七版(岩波書店。2018年1月12日)
明鏡国語辞典第三版(大修館書店。2021年1月1日)

例えば、次のような感じです。

あお・る【煽る】《他五》
①うちわなどを動かして風を起こし火勢を強める。「炭火を―・る」
②〔風が物を〕ゆり動かす。「強風に―・られる」
③〔物を〕はげしい勢いで動かす。「ドアを―・って室内に入る」
④おだてそそのかす。けしかける。たきつける。「購買欲を―・る」
⑤物事を活気づかせる。[句]「相場を―・る(=株をむやみに売買して相場を狂わせる)」
[文]《四》。

(学研現代新国語辞典改訂第六版)

用例にあり

意味の説明には 自動車用法(自動車運転での「あおる」)がないが、用例にはあるのは次の1冊です。

三省堂国語辞典第七版(三省堂。2014年1月10日)

あお・る【煽る】④相手が その気になるように、しむける。挑発(チョウハツ)する。「人を―・後ろの車がクラクションを鳴らして―」

(三省堂国語辞典第七版「あおる(煽る)」より抜粋)

 

「あおる(煽る)」の語釈に自動車運転での意味を明記している国語辞典

これら3冊です。

例解新国語辞典第十版(三省堂。2021年2月10日)
三省堂現代新国語辞典第六版(三省堂。2019年1月10日)
新明解国語辞典第八版(三省堂。2020年11月20日)

これらの辞書から、自動車用法(自動車運転での意味)の語釈のみ抜粋します。

あお・る〔煽る〕④自動車の運転中に、前を走る車のスピードを上げさせるためや いやがらせのために、接近して走る。

(例解新国語辞典第十版「あおる(煽る)」より抜粋)

あお・る〔煽る〕⑥〔スピードを上げさせるために〕他人の車のうしろに接近して走行する。

(三省堂現代新国語辞典第六版「あおる(煽る)」より抜粋)

あお・る【煽る】③〔馬をむち打ったり 前を行く車に迫ったり して〕早く進むように強制する。無理に急がせる。

(新明解国語辞典第八版「あおる(煽る)」より抜粋)

(「早く進む」は「速く進む」ではないのかという感じもしますが、ここでは拘らないことにします。)

このように、国語辞典においては、自動車用法の「あおる(煽る)」という言葉は、「車の後ろに接近して走行する」という意味で捉えられていて、幅寄せや無理な割り込みのようなものは含まれておりません。

新明解国語辞典第八版は「あおり運転」を見出し語として立項している、比較的珍しい辞書です(ただし、「あおり」の子見出しです)。

あおり【煽り】
―うんてん【―運転】道路を走行する自動車や自動二輪車などに対し、後方から高速で迫り、異常接近したり、急に前方に割り込んだり、また、パッシングしたり するなどして、相手を威嚇し恐怖を与えて、重大な事故を引き起こしかねない悪質・危険な行為。

(新明解国語辞典第八版)

このように「あおり運転」の語釈では、後方からの異常接近以外に、「急に前方に割り込んだりして、また、パッシングしたり」という行為も含まれています。

つまり、新明解の語釈からすると、「あおり運転を行う」のほうが、「あおる」の自動車での意味よりも、意味が広いということになります。

おそらく、数年後に発行される辞書には、大抵「あおり運転」という言葉が立項されるようになり、「あおる(煽る)」に「あおり運転を行う」という語釈が載るのではないかと思います。

なお、なぜか、自動車用法(自動車運転での意味)を載せているのは、三省堂の辞書が多いようです。

以上です、ケンケン。

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