こんにちは、キジくんケンケンブログのキジけんです、ケンケン。
「しおらしい」は漢字でどう書くのでしょうか。
「しおらしい」
は漢字で
悄らしい
と書きます。
(悄の右側は「肖」です。上の部分を「小」と書く必要はありません。)
「けなげである」「控えめでいじらしい」など意味の「しおらしい」のことです。
「しおらしい」の漢字
「しおらしい」は、「悄らしい」と書きます。
これは僕1人1が言っていることではなく、以下の二つを根拠として挙げておきます2。
『三省堂 反対語対立語辞典』(三省堂。2017年7月31日)
『当て字・当て読み 漢字表現辞典』(三省堂。2010年11月1日)
また、紙の辞典でなくても、ネットで検索して確認することもできます。
ただ、少々問題がないわけでもないです。
「悄らしい」という表記の問題
一般の国語辞典で「悄らしい」の表記は確認できない
一般の国語辞典で「しおらしい」を引いても、漢字表記が載っていることは一切ありません。当然「悄らしい」という漢字表記もありません。
「一般の国語辞典」と言っても、どのようなものが「一般の」国語辞典なのかという話になると思うので、僕が確認した国語辞典を下記に記します。(すべて紙の辞典です。)
以下の国語辞典では、「しおらしい」の漢字表記がありません3。
新解国語辞典第二版(小学館。1999年1月1日)
角川国語辞典新版417版(角川学芸出版。2008年11月25日)
みやすい現代国語辞典(三省堂。2010年9月10日)
大辞泉第二版(小学館。2012年11月7日)
集英社国語辞典第3版(集英社。2012年12月19日)
旺文社国語辞典第十一版(旺文社。2013年10月13日)
現代国語例解辞典第五版(小学館。2016年11月20日)
学研現代新国語辞典改訂第六版(学研プラス。2017年12月19日)
広辞苑第七版(岩波書店。2018年1月12日)
三省堂現代新国語辞典第六版(三省堂。2019年1月10日)
大辞林第四版(三省堂。2019年9月20日)
岩波国語辞典第八版(岩波書店。2019年11月22日)
新明解国語辞典第八版(三省堂。2020年11月20日)
旺文社標準国語辞典第八版(旺文社。2020年12月4日)
明鏡国語辞典第三版(大修館書店。2021年1月1日)
例解新国語辞典第十版(三省堂。2021年2月10日)
三省堂国語辞典第八版(三省堂。2022年1月10日)
新選国語辞典第十版ワイド版(小学館。2022年2月21日)
「悄」という漢字と「しおらしい」は、必ずしも意味が一致しない
「しおらしい」の意味を、大辞林第四版から引用します。
しおらし・い
①控えめでいじらしい。遠慮深くて奥ゆかしい。
②かわいらしい。かれんである。
③けなげである。殊勝である。
④上品で優雅である。
(大辞林第四版(三省堂。2019年9月20日)。用例等は省略)
「悄」という漢字の意味を漢和辞典で調べます。
「悄」の意味
❶憂えるさま。
❷静かなさま。静まりかえって声や音もないさま。
❸声がかすかなさま。
(全訳漢辞海第四版机上版(三省堂。2017年8月10日)。用例等は省略)
大辞林の「①控えめでいじらしい。遠慮深くて奥ゆかしい。」と全訳漢辞海の「❷静かなさま。静まりかえって声や音もないさま。」は、まあ、共通点があると言えば言えます。
ただ、大辞林の「④上品で優雅である。」と全訳漢辞海の「❸声がかすかなさま。」はかなり異なる感じもします。
全体的に見ると、「悄」という漢字と「しおらしい」は、似た部分もかなりあるけど必ずしも意味が一致しない、という感じです。
「悄らしい」という表記の妥当性
「悄らしい」という表記の問題を書いたので、今度はこの表記を擁護する考え方を書いておきます。
上記で、「一般の国語辞典で「しおらしい」を引いても、漢字表記が載っていることは一切ない」と述べましたが、それは、「しおらしい」に他の表記があったとしても、同じだということです。
また、そもそも漢字とは漢語(中国語)を表記するために出来ているので、日本語と全く一緒の意味ではないとしても、何も不思議なことはありません。
「悄」は、別の言葉であっても、「しお」と読むことがある
以下の言葉では、「悄」を使って書くことがあります。
記されている国語辞典は、「悄」を使った漢字表記のあるものです4。
しおしお(萎萎、悄悄)
現代国語例解辞典第五版(小学館。2016年11月20日)
新解国語辞典第二版(小学館。1999年1月1日)
新選国語辞典第十版ワイド版(小学館。2022年2月21日)
学研現代新国語辞典改訂第六版(学研プラス。2017年12月19日)
大辞泉第二版(小学館。2012年11月7日)
現代国語例解辞典第五版
こうして見ると、「しおらしい」を「悄らしい」と書くのも、まあいいかなという感じです。
そして、「悄」を「しお」と読むなら、「悄らしい」というように、送り仮名として「ら」も送っておいた方がいいかな、と思います5。
「ショウ」と「しお」は似ている
また、これは、「悄」は音読みで「ショウ」と読むため、「しお」という読みを想起しやすいということが言えます。
音読みと訓読みは別物ですが、連想しやすい読みだと読みやすいのです。
「しおらしい」の他の漢字表記
殊勝しい
「殊勝しい」という表記は、新潮日本語漢字辞典(新潮社。2007年9月25日)で確認しました。
ただ、「殊勝」という字面があまり「しおらしい」に合わないと思います。「勝」っていう字が入っているけど、何が勝つのだろうか、という印象がします。
「殊勝」(しゅしょう)は、「感心。けなげ。」という意味です(三省堂国語辞典第八版(三省堂。2022年1月10日))。
実は、「殊勝」の本来の意味は「特に優れている。」であって、「けなげで立派」のような意味は日本語特有な意味です(上級漢和辞典漢字源改訂第六版(学研プラス。2018年12月25日))。
可憐しい
「可憐しい」は『当て字・当て読み 漢字表現辞典』(三省堂。2010年11月1日)に載っている表記です。
ただ、「いじらしい」とも読むらしく、寧ろ、「可憐しい」でネットで検索すると「いじらしい」のほうが上位に出てくるようです。
尚、小説等の文芸作品には、他の表記が出てくるかもしれません。
「殊勝しい」や「可憐しい」について
確かに「殊勝しい」や「可憐しい」という表記は存在しますが、あまりお奨めしないというのが本稿の立場です。
そもそも、日本語において、「殊勝」は「しゅしょう」、「可憐」は「かれん」であって、「しおらしい」とは別の言葉です。
更に、読みにくいのではないかなと思います。
「殊勝」や「可憐」という言葉を想起させつつ「しおらしい」と読ませたいというなら、まあアリかもしれませんね、という感じです。
「悄」という漢字の書き方
「悄」は、忄+肖 です
「悄」は、「消」の偏(へん。左側)を「忄(りっしんべん)」に換えればOKです。
旁(つくり。右側)は「肖」です。
旁の上は、「⺌(しょうがしら)」と呼ばれる部分です。
手書きするときは、「小」のように、下が広がっている形で書く必要はありません(下が広がっている形で書いてもかまいませんが、やや書きにくいです。そこで、普通は下すぼまりで書きます)。
旁の下側は「月」です。
左下は、はらっても、とめてもかまいません。
そもそも、漢字を手書きするときに、「はらう」「はねる」「とめる」をさほど気にする必要はありません6。
「はらう」「はねる」「とめる」に気を付ければ、きれいな字・読みやすい字・書きやすい字にはなります。しかし、気を付けなかったからといって、間違った字ではありません。
「悄」の文部省活字
「解説 字体辞典(普及版)」(三省堂。1998年6月1日発行)という本に文部省活字の一覧が載っています。
文部省活字とは、「戦前 国定教科書 小学校用国語読本に使われた活字」です。今でいう教科書体のようなものです。
「悄」の文部省活字は次の通りです(撮影したもの)。

これによると、つくり(肖)の上の部分(⺌)は下すぼまりになっており、下の部分(月)の左下ははらっています(正誤の問題にはなりません)。
参考:「哨」の書き方
僕が持っている「漢字筆順ハンドブック第二版」(三省堂。1982年2月1日発行)という本には「書き文字」の見本が載っています。
この本で「悄」を探しましたが、ありませんでした。しかし、旁(つくり)が共通の「哨」(口+肖)が載っていますので、それを紹介します。

「哨」という字の旁(つくり)の上側は、普通、フォントでは、「小」のように下部が広がっています。しかし、やはり手書きの見本では「⺌」のように下すぼまりになっています。
「しおらしい」の語源
「しおらしい」は、動詞「萎る」から来ているというのが一般的な見解のようです(例えば、大辞林第四版(三省堂。2019年9月20日))。
しかし、『新明解 語源辞典』(三省堂。2011年9月10日)は、「「萎る」を形容詞化した語」という説を紹介しつつ、以下のように、「濡れてしっとりと潤う意の動詞「霑(しほ)る」と同源。」という別の見解も述べています。
<「霑(しほ)る」から>潤っているさまから風情のあるさま、上品で優美なさま、可愛らしく可憐なさま、控えめで従順なさまなどのような意味を派生していったものと想定される。
(新明解語源辞典(三省堂。2011年9月10日))
結論
「しおらしい」
は漢字で
悄らしい
と書きます。
尚、最後に念のために述べますが、僕はなんでもかんでも漢字で書くべきだとは考えていません。「どうしても何か漢字で書くとしたらどう書くのか」という話です。
以上です、ケンケン。
註釈
- というか一匹というか一羽[↩]
- 辞書の年月日は、その版の発行年月日です。複数の刷があるものも、第一刷の年月日に則るものとします。また、引用の際、見やすくするために改行を入れたり、漢数字を算用数字に変えたり、細かい記号や歴史的仮名遣いを省略・置き換えしたり、文字装飾等したりすることもあります。[↩]
- 本文見出し語に限ります。[↩]
- 国語辞典以外ならほかにもありますが、省略します。[↩]
- 尤も、「ら」を送り仮名に含めるかどうかがそんなに大きな問題とも思ってはいません。[↩]
- 干と于のように別の字になる場合は別ですが。[↩]