こんにちは、キジくんケンケンブログのキジけんです、ケンケン。
「破綻」をきちんと「はたん」と読めますか?
なんとなく「ハジョー」と読んでないですか?
紛らわしいのは、破錠(はじょう)という言葉も存在する、ということです。よく見てください。破錠の二番目の文字は「錠」、へんが金(かねへん)ですよ。
「破綻」の読み方を改めて確認します。
「破綻」の読み方 はたん
なぜ、「破綻」の「綻」は読み間違えられやすいのかという点について考察します。
「定」と、「定」を含む漢字の音読み
「定」と、「定」が旁に入っている漢字は、音読みでは何て読むでしょうか1。
カッコ内は用例です。
定 てい(協定)、じょう(約定、案の定)
錠 じょう(施錠、錠前)
碇 てい(碇泊)
このように、「定」が含まれる漢字は、音読みで「じょう」や「てい」と読むのが普通です。
「破綻」の「綻」を「じょう」と読んでしまうのも、無理もないことです。
えっ、ナニナニ? 「じょう」と「てい」もかなり違うって?
まあ、そうですね。しかし、同一の漢字でも、「う」で終わる音と「い」で終わる音があるのは、よくあることです。
カッコ内は用例です。
青 しょう(緑青)、せい(青春、青酸カリ)
形 ぎょう(人形)、けい(三角形)
貞 じょう(貞観)、てい(貞淑)
挺 ちょう(二挺拳銃)、てい(挺身)
他にもあると思いますが、このくらいにしておきましょう2。
つまり、「定」に「てい」のほかに、「じょう」という読み方があるのはそんなに不思議なことではありません3。
しかし、同じ漢字で「ん」で終わる音と、「い」「う」で終わる音の両方があるのは割と珍しいことです。(「綻」の他にあるでしょうか。) ←寝ぼけて書いたので取り消します。
えっ、ナニナニ? よく見慣れている字でも、あるって?
清 しん(王朝の「清」) せい(清浄)
京 きん(南京) けい(数の単位) きょう(上京)
明 みん(王朝の「明」) めい(明白) みょう(明日)
請 しん(安普請) せい(請求)
ま、まあ、ありますね(汗)。スミマセン。
ただ、これらの「ん」で終わる読みかたは唐音という読み方4で、日本での漢字の音読みとしてはちょっと例外的です(力業で捻じ伏せ)。
「定」を「てい」「じょう」と読み慣れている我々にとって、綻を「たん」と読むことに違和感を持つのはごく普通のことです。
破綻以外の「綻」を含む熟語
「破綻」の「綻」という字は他に、どんな言葉として使うのでしょうか。
「綻びる」という和語の動詞があるのは承知しております。ここで探しているのは、「綻を音読みする二文字以上の言葉」です。
四つの漢和辞典で調べました。『』内は漢和辞典の名前です。(尚、漢文の用例は省略)
・『新版漢語林』 ありませんでした。
・『旺文社漢和辞典新版』 「破綻」だけ。
・『漢字源』 「破綻」「脱綻(ほころびる)」「衣裳綻裂」
・『全訳漢辞海』 「綻裂(=ほころんで裂ける)」「破綻」
『漢字源』という辞典は、このサイズ(!)の辞典としてはかなり詳しいです。『全訳漢辞海』は漢字の辞典というよりも、漢文を読むための辞典という感じです。
それはともかく、「破綻」以外で、通常日本語で使う言葉で、「綻」を使ったものは見つかりませんでした。
これは、「破綻」という言葉を知らないと、他に「綻」の音読みになじむ機会はないということを意味します。
綻という字には秘密があった
綻の本字

もともと、綻という字は、「糸へん」に「旦」と書く字でした。
つまり、綻の本字は「糸へんに 旦」です。
これなら「たん」と読むのは自然ですよね。
なぜなら、負担の「担」、大胆の「胆」、平坦の「坦」のように、旦を含む漢字を「たん」と読むのは普通ですからね。
「糸へんに 旦」をペイントを使って作りました。
後で調べたら、䋎 をコンピューター上で表示はできることはわかりました。
ただ、どうしても、糸へんが、「点三つ糸偏」での表示になりますね。
ちなみに、本字というのは、「本来の字体」という意味です。
なぜ 糸+定 になったのか?
なぜ「糸+定」に変わったのかについての、『漢字源』での説明はこうです。
のち、ほころびを補う意味に転じたため、旦を定(落ち着いて動かない)に替えて綻と書く。
『漢字源 改訂第六版』
この説明だと、綻の成り立ちは、形声というよりも、会意というほうがふさわしいでしょう。
「綻」には「縫う・つくろう」という意味もあるということです。まあ、日本語ではまず使わない意味ですが。
『全訳漢辞海』では「新衣誰当ㇾ綻(しんいたれカまさニつくろフベキ) 訳 新しい服はだれに縫ってもらおうか」という漢文が用例として載っています。
「淀」の字の秘密
「綻」と同じく「定」を含む「淀」という字について考察します。
「定」を音符として含む「淀」の音読み
「淀」という漢字は普段音読みしません。しかし、和字(国字)ではないので、音読みはあります。
淀
漢音 テン
呉音 デン
成り立ちは、音を表す「定」(「水がとどまる」意味も表す。)+「さんずい」です。
ということは「定」という音符(音を表す部分)には、「ん」で終わる音を表す場合もあるということではないですか。
それなら、
「綻」は「糸へんに 旦」が元の字でした。それなら「たん」って読むのも納得ですね。
なんていう必要もなかったということになりますね。
淀は会意?
しかし、淀の字を「会意」だとして説明している辞典もあります。
[解字] 会意。氵(水)+定。水がある一つの位置によどんで変わらないの意味を表す。
(新版漢語林(大修館書店))
淀と澱の関係
淀が澱と通用する、というのは漢和辞典を見るとわかります。
澱というのは「澱粉」「沈澱」の「澱」ですね。
淀は澱の俗字であると記載している辞典もあります(旺文社漢和辞典)。
淀を含む熟語
僕は四つの漢和辞典5を調べましたが、淀を含む熟語(淀を音読みする二字以上の言葉)はほとんど確認できませんでした。
「ほとんど」と言っているのは、「淀江」(でんこう)という言葉はあったからです。
ただ、この言葉は、大阪の「淀川」を漢語風に言っただけで、チャイナ生まれの言葉(本来の漢語)ではありません。
それ以外はありませんでした。
淀の定は音を表していないようだ
上記の状況から、次のように考えることが妥当かと思われます。
・淀は澱の俗字・代用字として生まれた。
・淀は 「さんずい(水)+定(動かない)」の会意文字である。「淀」の旁の「定」は音を表していない。
「綻」の読み方の話に戻ります。やはり、「綻」を「たん」と読めないのは、仕方ない感じもします。
破綻には振り仮名を振ろう
以上のように、破綻は読み間違えやすい言葉なので、「破綻」にはできるだけ破綻のように、振り仮名を振りましょう。
以上です、ケンケン。
註釈- 他にも「掟」(おきて)や「淀」(よど)もありますが、普段音読みするものではないので、省略します。[↩]
- 通常使う範囲でももっとあると思いますが、たくさん挙げることが目的ではないのでこのくらいにします。[↩]
- 更に言えば、「定」(じょう)の歴史的仮名遣いは「ぢやう」ですので、「「てい」の「て」はタ行だが、「じょう」はザ行だ」という指摘は当たりません。[↩]
- 勿論、漢字音で「ん」で終わるのがみんな唐音ということではありません。[↩]
- 上でも出た、漢字源、旺文社漢和辞典、漢語林、全訳漢辞海[↩]