こんにちは、キジくんケンケンブログのキジけんです、ケンケン。
「雪がとける」というときの「とける」は漢字でどう書くべきなのでしょうか。
とりあえず、思い付くのは「溶ける」「解ける」「融ける」「熔ける」くらいでしょうか。
そもそも、和語を漢字でどう書くかという問題は難しいんですよ1。
本稿の結論は、次の通りです。
「雪がとける」の「とける」に最もふさわしい漢字表記は「融ける」である。
ただ、「溶ける」「解ける」と書いても間違いではない。
理由
「あたたかくなって雪がとける」「塩が水にとける」「唾液でとける錠剤」などの「とける」は同じ言葉なので書き分けの正誤を決めることは無意味です。
そのため、「雪が解ける」「雪が溶ける」「雪が融ける」はすべて正しい書き方です。
しかし、漢字の元の意味に照らして、最もふさわしいのは「雪が融ける」です。
漢字での書き分けの総論的な問題
漢語と和語は別物である
漢語(中国語)と和語(日本語)は、別系統の言語なので、漢語を書き表すための漢字を使って表そうとすると、意味にずれが生じてしまいます。
漢字を使って和語を書き表そうというのは、妥協であり擦り合わせです。
常用漢字表に載っているのか
常用漢字表は、「一般の社会生活において現代の国語を書き表すための漢字使用の目安」として国によって示されています。従って、常用漢字表に載っている読み方のほうがいいというのは一理あります。
他方、「漢字使用の目安」としか言っていないので、私的に漢字を使う場合は、常用漢字表に載ってなくてもいいのではないかとも言えます。
いろいろな「とける」を分けることができるのか
「地下の岩石がとけた高温の物質を、マグマという」「氷がとける」「虫歯で歯がとける」「手術で、とける糸をつかう」「野菜を水につけると栄養素がとけだす」「資金がとける」「こころがとけあう」「会社の雰囲気にとけこむ」「とけこみ方式による法律の改正」などの「とける」「とけ」などを、分類して書き分けるということが本当に可能なのでしょうか。
日本語話者にとって、「とける」は「とける」で一つであり、分けるのは難しいのではないかという疑問が浮かびます。
自立語を漢字で書きたい
「とける」を分類するのは難しいのだから、すべて平仮名(あるいは片仮名)で書きましょう、というのも一つの考えだと思います。
しかし、日本語の漢字は、意味の切れ目を表す役目もあります。できたら、漢字で書きたいですよね。
より一般的な用字
漢字を書き分けるという問題は、「とける」に限ったことではなく、和語の多くの動詞で見られます。
「かける」は「掛ける」「架ける」「懸ける」などの書き方、「きる」は「切る」「斬る」「伐る」「剪る」などの書き方があります。「とる」なら、「取る」「捕る」「採る」「盗る」「撮る」「摂る」「録る」などの書き方があります。
そして、これらの中の漢字から、「エンジンをかける」の「かける」はどう書こうかとか、「100メートル走で10秒をきる」の「きる」はどう書こうかとか選ぶわけです。「とる」なら「年をとる」はどう書くのでしょうか。
「きる」について考えていくと、「10秒を切る」はまあ良しとしても、「10秒を伐る」や「10秒を斬る」は違和感を覚えます。「年を取る」はさほど悪くもないですが、「年を撮る」や「年を盗る」はかなりおかしいわけです。
他方、「樹木をきる」は「樹木を伐る」でも「樹木を切る」でもいいわけです。コンビニで物を盗むことを「とる」で表すなら、「物を盗る」が一番いいとは思いますが、「物を取る」でもまあいいかなという感じです。
そうすると、「きる」は、「伐る」や「斬る」に比べて「切る」のほうが広く使えるし、「取る」のほうが「盗る」や「撮る」よりも広く使えると言えます。
そこで、どう書くかわからない場合は、より一般的に広く使える漢字を使うのが現実的な対応だと考えられるわけです。
より狭い意味の用字
「取る」は「盗る」や「撮る」も兼ねていると言えるのですが、「コンビニで物を取る」よりは「コンビニで物を盗る」のほうが、より「盗む」という意味を表現できます。なんでも広く使える漢字を使いましょうとはならないわけです。
「コンビニで物を取る」よりも「物を盗る」のほうが表現としてはイケているのです。
「取る」を使うのは、他に適切な漢字がない場合のほうがいいでしょう。
「とける」
「とく」と「とける」の関係
「卵をとく」の「とく」は「とける」とはどういう関係なのでしょうか。
「くず粉を水にとく」の「とく」を、固体を液体と混ぜ合わせることだと捉えると、「卵をとく」の場合は黄身(卵黄)が固体で白身(卵白)が液体なのでしょうか。少なくとも、一方が流体ならいいのでしょうか。
「納豆をとく」の「とく」はなんでしょうか。
「とける」「とかす」「とく」に共通の意味
日本語の「とける」「とかす」「とく」に共通の tok- のおおもとの意味として、「形がなくなる(形をなくす・形を失う)」というものがあるのだろうと思います。そこから考えた場合、これらの言葉を、まとめて「解」を使って「解ける」「解かす」「解く」と書くことも一理あるかと思います。
「謎がとける」の「とける」は、「なぞという形を失って、わかりやすくなった」ということだし、「歩いている間に紐がとける」は「結ばれていた形を失う」ということです。
また、「問題をとく」とは「未知の状態が含まれているものを、ほぐすようにして答えを求める」ことだし、「警戒をとく」とは「警戒している状態を、無くす」ことです。
「同音の漢字による書きかえ」による影響
「同音の漢字による書きかえ」では、熔・鎔 を 溶 に書き換えることになっています。これは漢語に限るはずのことですが、「とける」という和語においても置き換える人がいるのではないかと思います。例えば、次のような文です。
熔岩を溶岩と書き換えたことが、「高温でとけた」の「とけた」の漢字に影響を与えているのだろうと思われます。
新明解に見る不思議
手元の新明解国語辞典(第七版2)では、「解ける」と「溶ける・融ける」は別項目です。更に、「ゆきどけ」についても見てみたいと思います。
解ける
この辞書では、「紐がとける」「怒りがとける」「なぞがとける」という「とける」を「解ける」という項目にしています。
溶ける・融ける
「溶ける・融ける」という項目は、①②③の3つに分かれています3。
①の意味は「〈(なにデ)―〉雪・霜・氷や絵の具・飴などが、熱を受けたり液体にひたされたりして◁どろどろ(液状)になる。」です。(◁は、「どろどろ」と「液状」が置き換えできる、ということです。原文は縦書きなので上向き△)
②の意味は「〈(なにニ)―〉液体の中に塩・砂糖など粉状の物質が交ざって、均質化した液体になる。」です。
③は「熔ける・鎔ける」という表記が提示されています。そして、意味は「〈(なにデ)―)金属が高温に熱せられて、どろどろの状態になる。」です。
①②③のいずれも、結局は液状のものが出来るのですが、何が違うのでしょうか。
まず、③は、「熔ける・鎔ける」という表記のために「高温かつ金属」を分けているだけで、表記以外は①と同じことなんではないかと思われます。
岩石がマグマのようにとけた場合は、①なのか③なのかという問題は、なぜか新解さん4は、言葉を濁しているようです。
少なくとも、「雪がとける」に「熔ける」はないです。
①は、「雪がとける」という現象と「絵の具がとける」「飴がとける」という現象をすべて含んでいます。
①の中で、「熱を受けたり液体にひたされたりして」と書かれている部分が注目されます。これはつまり、国語的には、「熱を受けてとける」現象と「液体にひたされてとける」現象は分ける必要はないということです。
絵の具に水や油を加えて混ぜることによって「絵の具がとける」現象は、熱によってとけるわけではありませんよね。
チョコレートは、口に入れるととけるのですが、このチョコレートがとけるのは、「熱でとける」のでしょうか、「唾液という液体でとける」のでしょうか。
チョコレートは基本的には、摂氏約28度でとけるそうです。従って、「熱でとける」というべきでしょう。
しかし、口の中の唾液が28度を超えているのは、当たり前の現象です。通常の感覚でいくと、チョコレートは「唾液という液体でとける」のだとも言えます。
唾液を何度も吐き出してためた上で摂氏28度未満にし、その中にチョコレートを入れたらとけるかという実験は、理科の実験としては意味があると思いますが、国語辞書的にはあまり意味はなさそうです。
①と②は何が違うのか
新解さんの「溶ける・融ける」の①「雪・霜・氷や絵の具・飴などが、熱を受けたり液体にひたされたりして◁どろどろ(液状)になる。」の中に「液体にひたされたりして」と書かれているのを見て、これは②の、塩や砂糖が水にとける現象とどう違うのだろう、と思うのであります。
物質的に考えた場合、①に含まれる「絵の具が水や油にとける」現象は、絵の具が多くて水や油が少ないのです。②は、塩や砂糖に比べて、液体(水など)が明らかに多いのです。
そして、①では「雪・霜・氷や絵の具・飴など」では液状になるとは言え、姿は消えません。それに対して、②は「塩や砂糖などの粉状の物質」は、姿を消すのです。
それと、赤字で書かれている①〈(なにデ)―〉 と、②〈(なにニ)―〉 が重要です。
これは、「文の基本構文の型」というものです。
①は、(「水に絵の具がとける」ともいいますが)基本的には「水で絵の具がとける」という使い方が自然です。
②は、(「水で塩がとける」と言わないとは断言できないですが)基本的には「水に塩がとける」という使い方が自然です。
国語的に考えると、①と②は少し違うのです。そのため、①と②で漢字を書き分けるという考えもありえます。
それに則ると、「雪が融ける」「霜が融ける」「氷が融ける」「絵の具が融ける」「飴が融ける」、「塩が溶ける」「砂糖が溶ける」という書き分けでどうでしょうか。
ところが、①の中に「液体にひたされたりして」と書かれているのがモヤモヤするのです。
そして、厳密に考えると、①と②の境界は曖昧です。
新明解が語る、解ける・溶ける・融ける の書き分け
新明解では、「解ける」は「紐がとける」「怒りがとける」「なぞがとける」などの場合の書き方です。これは物が液状になる現象とはまったく別なのでわかりやすいです。
しかし、「雪がとける」「塩が水にとける」「飴がとける」の漢字は、「溶ける」「融ける」のいずれで書くとも判然としません。というか、どちらでもいいと言っているようです。
「ゆきどけ」と「くちどけ」
さて、新明解の「ゆきどけ」の漢字が問題なのです。
ゆき どけ【雪解(け)】積もった雪が春になってとけること。〔国際間などの、緊張緩和の意にも用いられる〕「―水」 表記「雪《融」とも書く。
(新明解国語辞典(第七版)「ゆきどけ」。アクセント記号は省略(以下同じ)。)
尚、 「雪《融」の「《」という記号は、「常用漢字表にある漢字だが、そこに載っていない読み方」を表します。
問題なのは、なぜ、「雪溶け」という表記が載っていないのだろうかということです。
「とける」は、「紐がとける」「怒りがとける」「なぞがとける」は「解ける」と書くのだと新解さんは言っているのです。そして、液状になるのは、「溶ける」か「融ける」と書け(高温で金属がとける場合に限り、「熔ける」「鎔ける」と書いてもよい。)と言っているのです。
ところが、「雪がとけること」を意味する「雪どけ」になると、「解」を使えと言っているのです。「融」を使ってもいいよ、というのはいいとしても、「雪溶け」という表記はないのでしょうか。
そして「くちどけ」はこうです。「くちづけじゃなくて、クチドケなんて言葉あったっけ?」と思ったかもしれませんが、「くちどけがいい」なんていいますよね。
くち どけ【口溶け】菓子などが口の中で溶ける様子。「―のよいチョコレート」
(新明解国語辞典(第七版)「くちどけ」)
「くちどけ」に「口解け」「口融け」という表記はないのでしょうか。
「とける」と「ゆきどけ」と「くちどけ」の漢字表記の整合性がおかしいのです。
これが新明解に見られる不思議なことです。
明鏡国語辞典にみる「とける」の漢字
明鏡国語辞典第三版(大修館書店)という辞書で「とける」とみてみました。
「解ける」と「溶ける・融ける」が別見出しになっているのは、新明解と同じです。
「解ける」の意味として、①「帯がとける」、②「謹慎がとける」、③「緊張がとける」、④「なぞがとける」などの「とける」が並んだあと、「⇒溶ける②」(溶ける② を参照せよ)と書かれています。
このことは、「解ける」の一部が「溶ける」であることを意味しています。
「溶ける」は、次のように書かれています。(細かい記号等は省略)
と・ける【溶ける(融ける)】[自下一] ①ある物質が液体とまじり合って均一の液体になる。溶液の状態になる。「洗剤が水に―」 ②固形物が熱や薬品によって液状になる。「氷[鉄]が―」 [書き方] 金属の場合は「鎔ける」「熔ける」、雪や氷の場合は「解ける」とも。 ◆「解ける」と同語源。
「溶ける・融ける」は「解ける」と同語源であり、雪や氷の場合は「解ける」と書いてもいいとのことです。
つまり、「雪がとける」の「とける」は「解ける」「溶ける」「融ける」のいずれでもいいということです。
いろいろな「とける」
「電子レンジにかけたらプラスチック製の容器が一部とけてしまった」
「池の氷がとけた」
「インスタントコーヒーは、水でもとけますか?」
「粉末のコーンスープがとけない」
「唾液でとける錠剤」
「砂糖が水にとける」
これらは国語的に考えた場合、同じ言葉であり、区別することはできないと考えられます。区別できないものに対して、どの漢字が正しいとか間違っているという議論は不毛です。
ただ、この漢字が「ふさわしい」という判断はあっていいと思います。
「雪がとける」の漢字
そもそも「雪がとける」とは何なのか
「雪がとける」というのは「雪が、液体である水になる」ことでしょうか。それとも、「雪が消えてなくなる」ことでしょうか。「水になって、流れて移動する」ことでしょうか。
単に「液体である水になる」ことではなく、他の意味が含意されている場合もあります。
熟語から考える
「氷解」とは「氷がとけてあとに何も残らないように、疑念や疑惑がすっかりなくなること。」ということです(goo辞書「氷解」)。
「融点」とは「固体が液体になる温度」です。
「溶解」「熔解」とか「溶融」とか「融解」なんていう言葉もあります。段々わけがわからなくなってきましたね。
辞書で「溶解」「熔解」「溶融」「融解」の意味を調べてみましょう。
よう‐かい【溶解】 の解説
[名](スル)溶けること。また、溶かすこと。特に、気体・液体・固体が他の液体あるいは固体と混合して均一な状態となる現象。ふつうは、各種物質が液体に溶けて溶液となることをいう。「食塩は水に溶解する」
(goo辞書 溶解 )
よう‐かい【溶解/×熔解/×鎔解】 の解説
[名](スル)金属に火熱を加えてとかすこと。金属が火熱でとけること。「鉄を―する」
(goo辞書 溶解 )
よう‐ゆう【溶融/×熔融】 の解説
[名](スル)「融解 (ゆうかい) 2」に同じ。
(goo辞書 溶融 )
ゆう‐かい【融解】 の解説
[名](スル)
1 とけること。また、とかすこと。「雪が融解する」「疑念が融解する」
2 固体が加熱などにより液体になる現象。溶融 (ようゆう) 。
(goo辞書 融解 )
「解」は 溶・熔・融 とは、ちょっと違うのでは?
ここでこんな疑問が湧きます。
「溶解」「熔解」「融解」という言葉はあっても、「解溶」「解熔」「解融」という言葉はないんだろうか、と。
“解溶”や”解融”という言葉をgoogleで調べると、そういう言葉は使われてはおります。ただ、一般的な辞書に載るような言葉ではありません。
「解」は「ばらばらにする」「形がなくなる」というのが原義であって、「固体が液体になる」という意味ではありません。
つまり、「溶解」「熔解」「融解」は、「溶けて形がなくなる」「熔けて形がなくなる」「融けて形がなくなる」です。「溶(熔)」と「解」、「融」と「解」には順序があります。(難しく言うと、「溶(熔)」と「解」の関係は排他的でなく、「融」と「解」の関係も排他的ではない、ということです。)
そうすると、「形がなくなる」ということに重きを置く場合、「雪がとける」は「雪が解ける」と書くのが妥当と言えそうです。
「雪が解ける」という表現は、「雪が消える」に近い意味合いを帯びます。
融雪
敢えて言うなら、「融雪」という言葉があるので、僕としては、「雪が融ける」と書きたいと思います。しかし、「とける」という訓読みは、常用漢字表の「融」にはありません。
常用漢字表「融」
また、僕は知らなかったのですが「溶雪剤」という言葉もあるようです。ただ、「溶雪剤」という言葉は、「ゆうせつざい(融雪剤)」という言葉を聞いて勘違いして漢字を当てたのではないか、と思います。
字面の難しさ・易しさ
「解」は小学校で習う漢字です(学年別漢字配当表の第五学年)。
しかし、「溶」や「融」はそこには含まれていません。
また、「融」はやや難しい印象の字です。融点の融です。金融の融です。
「雪がとける」というのは通常、そんなに難しいことだとは思われておりません。
水に関係する「さんずい」がついている「溶」を使いたくなる気持ちもわかります。
“春一番” と “おお牧場はみどり” の「雪がとけて」の漢字
www.google.com で次のキーワードで検索してみました(2021年2月5日未明)。結果の件数を書きます。
歌詞すべてが書かれているサイトもあれば、個人が歌詞を思い出して書いているサイトもあると思いますが、そういうことは考慮せず、単純に検索することにします。
「春一番」はキャンディーズという日本の女性3人組のアイドルグループが歌っていた歌です(かなり前ですが…)。「おお牧場はみどり」は、チェコスロバキア民謡を原曲とし、中田 羽後(なかだ うご)という方が訳したものです。いずれも「雪がとけて」という言葉が入っているので、漢字でどう書かれているのか調べるのにいいかなと思ったのです。
春一番(キャンディーズ)
“雪が解けて” “春一番” “キャンディーズ”
約 479 件
“雪が溶けて” “春一番” “キャンディーズ”
約 2,090 件
“雪が熔けて” “春一番” “キャンディーズ”
次の検索結果を表示しています: “雪が溶けて” “春一番” “キャンディーズ”
“雪が融けて” “春一番” “キャンディーズ”
約 124 件
“雪がとけて” “春一番” “キャンディーズ”
約 953 件
キャンディーズの”春一番”においては、
(多)”雪が溶けて” > “雪がとけて” > “雪が解けて” > “雪が融けて” > “雪が熔けて” (少)
“おお牧場はみどり”
“雪が解けて” (“おお牧場はみどり” OR “おお牧場は緑” OR “おゝ牧場はみどり” OR “おゝ牧場は緑”)
約 385 件
“雪が溶けて” (“おお牧場はみどり” OR “おお牧場は緑” OR “おゝ牧場はみどり” OR “おゝ牧場は緑”)
約 114 件
“雪が熔けて” (“おお牧場はみどり” OR “おお牧場は緑” OR “おゝ牧場はみどり” OR “おゝ牧場は緑”)
…との一致はありません。
“雪が融けて” (“おお牧場はみどり” OR “おお牧場は緑” OR “おゝ牧場はみどり” OR “おゝ牧場は緑”)
約 28 件
“雪がとけて” (“おお牧場はみどり” OR “おお牧場は緑” OR “おゝ牧場はみどり” OR “おゝ牧場は緑”)
約 287 件
“おお牧場はみどり”においては、
(多)”雪が解けて” > “雪がとけて” > “雪が溶けて” > “雪が融けて” > “雪が熔けて”(少)
現代漢語では
日本語は日本語だし、チャイナ語(中国語・普通話)はチャイナ語です。従ってチャイナでどう言おうと直接は関係ないのですが、参考にはなるかもしれません。
手元の『岩波日中辞典第二版』の「と・ける 溶ける・融ける・解ける」には、次のような例文が出てきます。(ピンインは省略。簡体字は繁体字または日本の字体に置き換え。)
川の氷がとけた 河里的▼冰化[冰凍開化]了 / 江河▼解[化/開]凍了
雪は1日でとけてしまった 積雪一天就融化了
鉄がとける 鉄熔化塩は水にとける 鹽溶于水 / 鹽在水里溶化
(『岩波日中辞典第二版』の「と・ける 溶ける・融ける・解ける」より)
例文の [ ] は、交換可能を意味する。 ▼は交換可能の起点。
驚くことに、チャイナ語では、「化」だけで、「とける」という意味があるようです(化)。
「化」はともかく、上記の例に則ると、雪の場合は「融ける」がよさそうです。「江河解凍了」という例文を見ると、「雪が解ける」もアリかもしれません。ただ、「解」に「温度が上がって液体になる」という意味があるというよりも、「解凍」で「氷がとける」という意味になっていると考えたほうがいいかもしれません。実際、「解」に「液体になる」という意味はなさそうです(解)。
というわけですので、チャイナ語から考えたところでは、「雪が融ける」が妥当かなという感じです。
ところで、「溶」「熔」「融」は、róng という同じ発音をします。ということで、これらは同じ言葉であって、漢字を書き分けているだけという捉え方もできるかもしれません。
ネットに見る「雪が解け」「雪が溶け」「雪が融け」「雪が熔け」の件数
www.google.com で次のキーワードで検索してみました5(2021年2月7日)。尚、語句の前の -(マイナス)は、その語句を含まない、ということです。
“雪が溶け” -“雪が解け” -“雪が融け” -“雪が熔け” -“雪がとけ”
約 443,000 件
“雪が解け” -“雪が溶け” -“雪が融け” -“雪が熔け” -“雪がとけ”
約 2,280,000 件
“雪が融け” -“雪が解け” -“雪が溶け” -“雪が熔け” -“雪がとけ”
約 342,000 件
“雪が熔け” -“雪が解け” -“雪が融け” -“雪が溶け” -“雪がとけ”
約 568 件
“雪がとけ” -“雪が解け” -“雪が融け” -“雪が溶け” -“雪が熔け”
約 407,000 件
つまり、
(多)”雪が解け” > “雪が溶け” > “雪がとけ” > “雪が融け” > “雪が熔け”(少)
という感じです。件数の桁数で考えると、”雪が解け”だけが圧倒的に多く、”雪が溶け” “雪がとけ” “雪が融け” がほぼ並び、”雪が熔け”はほとんどないということです。
白川静『字統』による説明
白川静という方が著した『字統』という書物があります。漢字の成り立ちや意味を説明した字源辞典と呼ばれているものです。
その辞典に、「解」「溶」「融」「熔」が載っているので、それらの説明を引用したいと思います。ただ、そのまま引用すると、漢字の専門家か漢字マニアでもなければ「なんだかさっぱりわからん」ということになりかねません。
そこで、「とける」の書き分けに関係すると思われる部分のみ引用します(原文は縦書き)。
『字統』による「溶」の説明
溶
〔設文〕一一上 に「水盛なるなり」とあり、溶々・溶溢は水のゆたかに流れることをいう。そのなかにすべてが溶けこむことから、溶解・溶液の意に用いる。
『字統』による「熔」の説明
熔
容に溶の意があり、すべてが一にまとまることをいう。加熱熔解して、一に融けあう意である。
『字統』による「融」の説明
融
融はまた由と声義の通ずる字であるが、由は瓠形のものの実が熟して、油化した状態をいい、融・油は同じ語源であると思われる。由・卣・酋・融などに、とけてやわらかいという共通義があり、声義の通ずるところが認められる。
「瓠形」は「ひさごがた」と読む言葉ですが、「瓠」に「こ」と振り仮名が振ってあります。
『字統』による「解」の説明
解
角と刀と牛に従う。刀で牛角を解く形で、〔設文〕四下に「判つなり」という。
『字統』の記述をまとめると
『字統』では、「解」「溶」「融」「熔」のうち、「解」だけが明らかに異なることがわかります。もし、「雪が解ける」と書くならば、「雪がばらばらになる(もとの形がなくなる)」というような印象を与えることになります。
「溶」は「ゆたかに流れる水に溶けこむ」という説明からすると、「雪が溶ける」と書く場合、「水の中に雪がとけこんでいく」6という印象を与えます。雪そのものが液体の水になるのとは異なります。
「熔」は「加熱熔解して、一に融けあう」という説明からはなんとも言えない微妙な感じです。ただ、「容に溶の意があり、すべてが一にまとまることをいう。」という説明からすると、「容」を部分として含む「溶」「熔」に共通の意味には、「複数のものがあり、一方が他方に入っていく」というイメージがあるようです。「容」は容器の「容」だし、「いれる」という読み方もありますよね。
「融」についてですが、「雪が融ける」とは、「雪そのものがとけてやわらかくなる」というイメージになります。「雪がとける」場合に「雪がやわらかくなる」というイメージを持つかどうかは人によって異なると思います。
「複数のものがあり、一方が他方に入っていく」というイメージになってしまう「溶」や「熔」は、「雪がとける」の漢字として使うのは慎重であるべきだと僕は考えます。
『全訳漢辞海』による説明で補足
『全訳漢辞海 第四版』(三省堂)という辞典を見て、「とける」の書き分けに関して気づいたことを補足します。
「溶」に「とける」の意味はもともとなかった
「溶」は、「川の流れが盛んなさま。」「ゆったりと流れるさま。」がもともとの意味のようです。
「とける」については次の記述があります。
動詞の「とく」「とける」の意は、「鎔ヨウ」から類推して明治期に国訓として用いられたが、中国でも採用された。
(『全訳漢辞海 第四版』「溶」)
もともと「溶」に「とける」の意味はなかったが、あとで日本で「とける」の意味に使うようになったということですね。
もともと意味があろうとなかろうと、今その意味があるならいいじゃないか、という考えは間違っていません。ただ、積極的にその意味で使うこともないわけです。
漢詩での「融」の使用例
「融」の「とける」の意味の使用例として次の通り漢詩の一節が挙げられています。
楼雪融城湿ろうせつとケテじょううるおフ 訳 城楼の積雪がとけて城壁がぬれている(杜甫-詩・晚出左掖)
(『全訳漢辞海 第四版』「融」)
実際に漢詩の例があると、「融」は「とける」という意味なんだと確認できて、心強いです。
「熔」は後で作られた漢字だった
『全訳漢辞海 第四版』「熔」では、次の解説があります。
[参考] 近代、「鎔ヨウ」の代用字として作られた。
僕はなんとなく「熔」が先にあって、「鎔」は後から出来たと思っていました。
しかし、「鎔」が先で、「熔」が後から出来たと言っています。
「とける」の意味における鎔・熔・溶の捉え方
上記のように、「溶」という字は古代からありましたが、「とける」という意味で使われるようになったのは比較的最近のことです。
つまり、「とける」という意味において、(融は別格としても)「鎔」が本家であり、「熔」は分家、「溶」は余所から引っ越してきた新参者という感じです。
「溶」を「とける」という意味で使うのは「鎔」に拠っているのです。
現在でこそ、「溶ける」は「塩が水に溶け込む」ような場合に使い、熱によって塩そのものが液体になるような場合には使わない、などと言われますが、由来から考えれば、さほどの根拠もないわけです。
「融」の成り立ちがよくわからない
「解」「溶」「熔」は、字を分解すると、字義と関係することがわかります。
「解」は「角」+「刀」+「牛」です。「溶」はさんずいが付いているので水と関係ありそうです。「熔」は火へんだから火に関係があるんですね。
しかし、「融」はその成り立ちが、ぱっと見わかりません。
手元の漢和辞典では「融」の成り立ちについて次のように解説しています。
かなえから虫がはい出すように蒸気が立ちのぼるさまから、とおる・とけるの意味を表す。
この説明を読むと、僕はストンと腑に落ちるどころか、頭の中に「?」がたくさん浮かびます。
「かなえ」をgoo国語辞書で調べると「現在の鍋・釜の用に当てた、古代中国の金属製の器。」と書いてあるのだから、「かなえ」がそういうものだというのはいいんですよ。
しかし、「虫がはい出すように」というのは何かこじ付けな感じがしませんか?
『字統』での説明は次の通りです。
初形は鬲と蟲とに従う。鬲は烹飪に用いる器。その器中のものが腐敗して虫を生じ、器の旁に虫があふれ出ている形で、ものの腐敗融会していることを示す。
正直あまり納得はいきませんが、「虫がはい出すように蒸気が立ちのぼる」という説明よりはありえそうかな、と思います。「融会」(ゆうかい)とは「とけて一つに集まること。とかして集めること。」という意味だそうです(融会)。
別の漢和辞典の説明によると、「虫」は音を表すだけであり、生き物のムシは直接関係ないようです。
融
解字 形声。鬲(穀物をむすかなえ)と、音を表す虫チュウ(蟲の省略形。ユウは変わった音。ぬけ出る意→袖チュウ)とで、かなえから蒸気がぬけ出る、ひいて「とおる」、転じて、物が「とける」意。
(旺文社漢和辞典新版)
音を表す「虫」は「ぬけ出る」という意味と関係はあるのかもしれませんが、それを虫と絡めて「虫がぬけ出る」と考える必要はないのではないかと思います。
表記の重層性
表記を学ぶ順番
日本語話者は、文字はまず「ひらがな」を学びます。
(カタカナと漢字がどちらが先かは措くとして、)漢字はひらがなよりも後で学びます。
当たり前過ぎてあまり意識されないことですが、「解ける」「溶ける」「融ける」という漢字は、同時には学びません。
順番としては、「とける」という表記を学び、「解ける」という表記を学び、その後、「溶ける」、「融ける」、「熔ける」、「鎔ける」という順番で学んでいくはずです。
常用漢字に「融ける」「熔ける」「鎔ける」はないので、そんなのは知らないという人がいるのは構いません。もしかしたら、「溶ける」も知らないという人もいるかもしれません。
一般的には、「とける」「解ける」「溶ける」「融ける」「熔ける」「鎔ける」の順番で知っていくことになります。
「熔ける」「鎔ける」は特別感があるので除くとして、「とける」「解ける」「溶ける」「融ける」を学習していく人は次の(A)(B)(C)のどれでこれらの書き分けをしていくのでしょうか。
(A)「とける」の一部分(あるいは全部)が「解ける」であり、「解ける」の一部分が「溶ける」、「溶ける」の一部分が「融ける」と理解する。
(B)「とける」の中の一部分が「解ける」、「解ける」以外の「とける」の一部分が「溶ける」、「解ける」でも「溶ける」でもない「とける」の一部分が「融ける」と理解する。
(C)「とける」の一部分が「解ける」、「解ける」の一部分と「解ける」以外の「とける」の一部分を合わせたものが「溶ける」、「解ける」「溶ける」の一部分と、「解ける」「溶ける」以外の「とける」の一部分を合わせたものが「融ける」、と理解する。



(D)「とける」の一部分(あるいは全部)が「解ける」であり、「解ける」の一部分が「溶ける」、「解ける」の別の一部分が「融ける」である。「溶ける」と「融ける」は重ならない。
(E)「とける」の一部分(あるいは全部)が「解ける」であり、「解ける」の一部分が「溶ける」、「解ける」の別の一部分が「融ける」である。「溶ける」と「融ける」の一部分どうしが重なる。


仮説ですが、学習者は、実際には(A)のように理解していくのが普通なのではないでしょうか。
(A)は、「とける」の全部または一部分が「解ける」、「解ける」の一部分が「溶ける」、「溶ける」の一部分が「融ける」と理解できます。
しかし、(B)は、「解ける」を習う段階で「『解ける』と書いてはいけない『とける』がある」と理解する必要があります。そして「溶ける」を習う段階で「『解ける』『溶ける』と書いてはいけない『とける』がある」と理解しなければなりません。
(D)(E)も、「溶ける」を習う段階で「『溶ける』と書いてはいけない『とける』がある」と理解しなければなりません。
(A)も「溶ける」を習う段階で「『溶ける』と書いてはいけない『とける』がある」と理解するのは同じですが、それが「靴ひもがとける」や「謎がとける」など、明らかに別の現象であるので、理解は容易です。
そして(A)の理解にのっとると、「融ける」と書けるものは「溶ける」「解ける」「とける」のすべてが正解となるのではないでしょうか。
特別に書き分けを意識したり、習ったりしないかぎり、その重層的な理解のままになるだろうと思われます。
「熔ける」「鎔ける」を加えてみた重層性
「とける」⊇「解ける」⊃「溶ける」⊃「融ける」⊃「熔ける」⊃「鎔ける」
という重層的な関係があります。(左のものが右のものを包んでいる、という関係です。)
あとは、どこまで文字の書き分けにこだわるか、という問題になります。
文字のイメージ・こだわり
たとえ「融ける」という表記を知っていたとしても、「雪が解ける」と書きたいときもあります。
「解ける」は「解放」「解消」の「解」です。「春になって雪から解放された」というときは「雪が解ける」と書くほうがふさわしいです。また、「雪が消えた」という意味合いを含めたいときも「雪が解けた」と書くのがふさわしいです。
「雪が溶けた」と書けば、「雪そのものが温かくなって水になった」というよりも「水をかけたらとけた」というイメージにふさわしいです。
ただし、これらは文字にこだわった場合にどう書き分けるのがよいかという問題であって、正誤の問題ではありません。
まとめ
「雪がとける」の「とける」に最もふさわしい漢字表記は「融ける」である。
ただ、「溶ける」「解ける」と書いても間違いではない。
漢字の意味合いにこだわりたい人には、「雪が融ける」「雪が溶ける」「雪が解ける」のどれがふさわしいのか考えて選んで書くことをお勧めする。
以上です、ケンケン。
註釈- そして、大抵、どれでもいいのではないか、というところに答えが落ち着きます。[↩]
- 手元に第七版があるからそれを見るだけであり、2021年2月時点の最新版は第八版だそうです。[↩]
- 原文では、㊀㊁㊂という漢数字です。[↩]
- 新明解国語辞典を擬人化して呼ぶ語。[↩]
- 「もしかして:」と表示されて”雪が熔け”を”雪が溶け”に置き換えようとすることがあるが、これについては無視する。[↩]
- いわば、塩が水にとけるかのような状況。[↩]